誤嚥性肺炎を予防しよう(実践編)

こんにちは、岡本歯科ロコクリニック院長のしんや先生こと、池澤慎哉です。

今回の内容は、前回の続きです。誤嚥性肺炎を予防するためにお家で簡単にできる方法について、書いていきたいと思います。
それでは、まず『嚥下体操』についてです。
嚥下体操の中で代表的なものとして、『パタカラ体操』というものがあります。
『パ』を5回、『タ』を5回、『カ』を5回、『ラ』を5回順番に発音してもらいます。その後、『パタカラ』を5回発音してもらいます。
出来る人には、これを出来るだけ早く正確に言ってもらったりもします。
これは発音の体操になるのですが、これがとても嚥下にとって重要なトレーニングになります。それではここからは、なぜ発音が飲み込みに繋がるのかを一緒に体験してみましょう。

まず、『パ』と発音してみてください。
上下の唇が閉じているはずです。これは『マ』でもあてはるのですが、発音のいくつかの音は、このように唇を閉じないと綺麗に発音できないものがあります。唇を閉じずに『パ』と発音しても、『ハ』や『ファ』としか聞き取ってもらえないような音にしかならないですよね。
次に、『タ』と発音してみてください。
上顎の真ん中辺りに舌が当たることがわかるかと思います。舌を上顎に押し付けることで、『タ』という音が出せるのです。これも舌を当てずに発音すると、『ハ』に近い音にしかならないことがわかると思います。
今度は、『カ』という音を発音してください。
喉の奥の方の筋肉が動いていることがわかりますか?これにより、本来繋がっている鼻と口の空間を閉鎖して、鼻に空気や飲食物が逆流しないようになります。喉の筋肉を意識的に動かすのはかなり難しいのですが、できるだけソッと発音しようとすると喉の奥の空間を閉鎖させずに発音できますが、『ア』や『ハ』に近い音にしかなりません。とても『カ』とは聞き取れない音になってしまいます。
最後に、『ラ』と発音してみてください。
上顎の前歯の裏辺りに、舌があたることがわかるかと思います。これも舌を当てずに発音しようとすると、『ア』と『ラ』の間のような発音になりますよね。舌を当てなくなるだけでちゃんとした発音ができなくなるのです。

それではここからは、さっきの発音がどのように摂食(食べること)・嚥下(飲み込みのこと)に関係しているのかを体験していきましょう。
ご自身の唾液でかまいませんので、まずは普通に飲み込めることを確認してください。大丈夫ですか?これがスッと出来なければ、誤嚥の予備軍かもしれません!歯医者さんで一度、相談することをお勧めします。

それでは、普通に唾液が飲み込めたとして、上下の唇をつけずに飲み込んでみてください。普通に飲み込むことが出来る人でも、この制限があるだけで一気に飲み込みにくくなることがわかると思います。中には、上下の唇をつけなくても飲み込める方もいらっしゃいますが、それでもやりにくさは十分わかっていただけたかと思います。たった一つの動作が出来ないだけで、ここまでやりにくくなるのです。普段、無意識に食事をとっているので、ビックリした方も多いのではないでしょうか?
そもそも唇は食べ物を口の中に取り込んで、こぼさないようにする役割があります。この『パ』の発音が難しい人は、飲み込みの問題だけではなく、食べこぼしもしやすくなります。

次に舌を上顎につけずに唾液を飲み込んでみてください。ほとんどの方が出来ないのではないでしょうか?実は食べ物を噛むときや噛み終えた食べ物を飲み込むときというのは、舌で食べ物や唾液を上顎に押し付け、喉の奥に送り込んで飲み込みやすくしています。ですので、舌の全面が上顎についていないといけません。奥に送り込む動作が出来なくなるだけで、飲み込むことはほとんど不可能になってしまうのです。
これに当たる音が『タ』です。この発音が難しくなった方は、かなり誤嚥のリスクが高まります。
そして、『タ』が発音しにくいということは、食べ物を押しつぶしたりすることができなくなってきているので、食事の形態も普通食ではなく、刻み食に変更するといったことも考えないといけないことが多いです。

今度は、息を吐きながら唾液を飲み込んでみてください。
これが出来たという方は、超人です!普通の方はできません。
私たちは喉の奥の力を入れて喉を閉めることで食べ物を鼻の方ではなく、食道へ送りこんでいます。一瞬呼吸を止めることで、この動きを可能にしています。
『カ』の発音が出来ない方は、この呼吸を止めて鼻と口を閉鎖することがうまくできず、食べ物などを食道ではなく気管に入れてしまうリスクが高まるので、誤嚥につながりやすくなるのです。

最後に『ラ』ですが、これは飲み込みに関しては『タ』に近いです。舌を丸めて、喉の奥に食べ物や唾液を送り込むことが出来るかどうかに関係しています。舌をうまく使えず、奥に押し込めないと嚥下ができなくなるのです。
『ラ』に関しては、食べ物を喉の奥へと運ぶための舌の筋肉の動きをみることができるので、飲み込む前の段階の準備が出来ているかが、この発音をみることでわかります。

これらのことからわかることは、『パタカラ』の音が発音しにくくなっている方は、何かしら嚥下に問題が起こっている可能性が高いということです。じゃあ、発音が難しくなってきている方はどうすればいいのでしょう?諦めることしかできないのでしょうか?

そんなことはありません。逆に『パタカラ体操』を利用していけばいいのです。
先ほどの話で『パタカラ』の発音が出来ていない人は摂食・嚥下に問題がでることはわかっていただけたと思います。ですので、逆にこの発音をすることで、摂食・嚥下に使う筋肉をトレーニングしていけば、また飲み込んだりすることがしやすくなるということです。
介護施設などでも、この体操は浸透してきており、食事の前に皆さんで『パタカラ体操』を行っているところもあります。
ちょっとしたことですが、普段使っていない筋肉をいきなり食事のときだけ使えというのも難しい話なのです。普段のトレーニングが大事なんです。

もっと単純な話をすると、普段から会話をすることが非常に重要です。施設に入ってほとんど寝たきりになったり、ご自宅でも一人暮らしの方は必然的に会話も減ります。そうなると、会話に使う筋肉、つまり摂食・嚥下に必要な筋肉も使わなくなり、誤嚥しやすくなるのです。

そういうことにも配慮し、私たち岡本歯科ロコクリニックの訪問診療では、『パタカラ体操』はもちろんのこと、何気ない会話も大事にしています。会話することも治療になり、その方の健康状態に大きく影響するからです。

ロコクリの理念にもなりますが、『笑顔溢れる世界をつくる』ということを達成するために私たちドクター含め、スタッフ一同精一杯サポートさせていただきます。
ブログでも、少しでも皆さんにお役に立てる内容をこれからもアップしていきますので、是非参考にしてみてくださいね。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。

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